2TB ハードディスクがもたらすインパクト
2009.9.28
2TB ハードディスクに関するXyratex, HGST両社の発表
2TBドライブのもたらすもの
1.ドライブメーカー各社の動向
2.水平磁気記録から垂直磁気記録方式への移行
3.ドライブメディアの高密度化
RAID装置への2TBハードディスクの搭載
将来のハードディスク
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2TB ハードディスクに関するXyratex, HGST両社の発表
去る、8月13日 Xyratex社は日立の2TBハードディスクをサポートする旨のプレスリリースを発表いたしました。この中で、Xyratex社はエンタープライズ仕様のRAID製品に要求される性能と信頼性を確保したドライブとして、日立グローバルストレージテクノロジー社(HGST)が発表したUltrastar A7K2000、7,200rpm 2TBのドライブを採用したことを発表しました。Untrastar A7K2000 は現段階で出荷されているハードディスクとしては最も容量が大きく、ドライブ回転スピードも他社製品に比べて最も早く、エネルギー効率がよいドライブとして評価されています。今後、Xyratex社は総てのストレージ製品に搭載し、ユーザに提供して行くと述べています。
参照リンク: Xyratex社 ニュースリリース
一方、HGST社は同じく8月11日のプレスリリースで、Ultrastar A7K20000モデルの出荷開始を発表しています。この中で、A7K200はエンタープライズ仕様のドライブとしては初めての7200rpmの高速性能ドライブであるとともに、高信頼性を実現し、低消費電力であることも説明しています。また、業界で初めて7200rpmドライブ回転数を実現したA7K2000ドライブを Xyratex社 がエンタープライズクラスストレージ用ハードディスクとしてその製品に搭載する為に、両社が協力して互換性と信頼性を確認しているとの発表を行ないました。
参照リンク: 日立グローバルストレージテクノロジー社(HGST)ニュースリリース(PDF)
- ドライブメーカー各社の動向
SeagateやWesterm Digitalといった有名ハードディスクメーカーは、既に、エンタープライズ向けストレージ用途ではないにしろ2TB容量の大容量ドライブを発表しています。
Western Digitalは、WD2002FYPSというモデル名で2TBの大容量ドライブを初夏の頃から販売しています。このドライブは、ドライブ回転数が5400rpmから7200rpmまでの範囲で、I/Oの負荷に応じて回転数を変化させるIntelliPowerという制御方法を採用しています。また、同時に回転待ち時間を利用してゆっくりシークをさせるIntelliSeekという方法を採用しており、できるだけ低回転で、無理の無いシークをさせることで、消費電力を抑制すると同時に、ドライブの長寿命化を目指しているようです。
一方、Seagate社は、ST32000542ASというデスクトップモデルで5900rpmの回転スピードのモデルを出荷済みです。また、本文原稿を書いている最中の9月21日に、Seagate社は期せずして7200回転の2TBドライブST32000641ASを発表しました。これで漸く同社も7200rpmドライブでの市場参入ですが、エンタープライスラインアップのNSモデルでの出荷開始には至っていない様です。HGST A7K2000に対抗する高速回転の2TBドライブの出荷はもう暫く待つ必要がありそうです。
- 水平磁気記録から垂直磁気記録方式への移行
ドライブメディア容量が260GBに達した頃、水平磁気記録方式は記録密度向上の限界に達しつつありました。これは記録されたデータがドライブメディア上で相互に干渉しあい、データが消滅してしまう熱ゆらぎ現象という問題に直面していたからです。この問題を解消するため、1980年代後半より東北大学で研究開発されていた垂直磁気記録方式が実用化される段階に入ってきました。2000年初期の段階では、記録密度においては水平記録方式と垂直記録方式では大きな差は無かったようですが、2005年頃から3.5”メディア当り300GBを超える容量を実用化できるようになってきました。そして、2007年に垂直磁気記録方式の実用化としては第一世代に当る3.5” 1TBのドライブが3.5” HDDメーカー各社から一斉に出荷開始され、2008年には激しい市場争奪戦が演じられました。
一般的にハードディスクドライブ垂直磁気記録方式は水平記録方式に比較して、磁気メディア素材における記録媒体の相互の結合によりより強固なデータの保持性能を維持することが可能なようです。ある実験では水平記録の場合は10年でデータの保持力はほぼ無くなる一方、垂直磁気記録方式の場合は殆どデータの劣化が起きないという報告がされています。
- ドライブメディアの高密度化
今回2TB容量のドライブがリリースされるにあたり、いずれのHDDメーカーも1TBのモデルで使用されていた垂直磁気記録の1ドライブメディア当り340GBの仕様から500GB容量へドライブメディア1枚あたりの容量を大幅にアップさせています。このことにより、HDD1台の容量が2TBという大容量が実現したことはいうまでもありませんが、単に1ドライブ当りの容量増加ということ以外に、垂直磁化技術の進化によってもたらされたドライブ上に書かれるデータの高密度化により、ドライブ自体のリードライト性能の大幅な向上をあげることができます。
今まで最大容量といわれた1TBのSATAドライブの場合、1トラック上に書かれるデータの記録密度は約1000キロビット/インチ程度です。この1トラック上の記録密度により、ドライブメディアに直接書き込み、読み込みになる連続データの場合、そのデータ転送スピードは65MB/秒から80MB/秒程度です。一方、新しい2TBドライブの記録密度は1400キロビット/インチと1トラック上のデータ記録密度は40%程度も向上しています。この結果、ドライブの回転数が同じ7200rpmの場合、ヘッドの下を通過するデータ量は単位時間当り1TBドライブの場合より40%多く通過します。いわゆるシーケンシャルデータの場合で、95MB/秒から120MB/秒程度データの読み書きが可能になる事を意味します。ハードディスクの記録密度が向上した分、多くのデータを一回転で読み書きすることができるようになります。SATAドライブはSASドライブと比較してドライブ回転スピードが約半分になり、コマンドを受け付ける量も劣ります。今回、2TBのSATAドライブが実用化されることにより、容量増加以外にSATAドライブの性能面に与える効果は大きいものがあります。今回、HGST社がA7K2000モデルをエンタープライズモデルとして出荷開始したことで、SANやNAS用外部ストレージとして使用されるRAID製品も一挙に2TBのドライブを使いこなすことになります。このことはいうまでもなく従来の最大容量のドライブであった1TB 7200rpmのドライブが一夜にして倍容量ドライブに置き換えられるということです。現在、ストレージ業界での標準的なRAID装置のドライブ密度は、サーバラック2U(約88mm)当りハードディスクドライブを12台搭載する製品が一般的です。1TB HDDを搭載してRAID装置の物理容量を12TBで構成するのが最大容量でした。しかし、2TB HDDがリリースされることにより、僅か2Uのラックスペースに24TB容量のRAID装置を搭載できることになります。
この様に、同一RAID装置に最低でも倍の容量のドライブを搭載することができますので、居ながらにしてストレージ容量の増加を実現するこができます。また、現在世界的に感心が高い省エネルギーの観点からも、1TB容量のドライブを使用して構成するRAID装置に比べて、実際のドライブの台数が半減することで、消費電力も大幅に削減することができます。Xyratex社は、同社の全RAID製品に対しHGST社の2TB SATA ドライブを採用すると発表しています。特に、大容量RAID F5404E 装置の場合、4Uの筐体に 48ドライブ搭載することができ、標準的なRAID製品のドライブ搭載密度の倍の台数のハードディスクを搭載することが可能です。2TBドライブを搭載することにより、上図の様に1TB HDDを搭載した通常ドライブ密度のRAID製品に比較して1/4のラックスペースで済み、F5404E の4Uの筐体1台で96TBの物理容量を実現することができます。更に、同じく4Uの拡張筐体を接続することで、RAIDコントローラを搭載したRAIDシステムで182TBの大容量ストレージ容量を構成することが可能です。このことは一般のデータセンタにサーバラックを置く多くのエンタープライズユーザにとって大きな朗報です。データセンタでのラックスペースを1ラック当り月額50万円程度、また、1ラック当りの使用可能電力容量も50A程度と想定しますと、180TB程度の大容量RAID装置とサーバ、ネットワークスイッチ等を1ラックに収納することができるということです。従来の1TBの場合は2サーバラックを前提に検討せざるを得ませんでした。2TBのハードディスクドライブをRAID装置に搭載できることで、僅か1ラックでこれだけ大容量のストレージを確保することができるようになります。
ハードディスクの技術はまだまだ進化し続ける様です。本文でご紹介した1Tのドライブのメディア上のビット密度は約230Gbit/平方インチです。今回2TBになることで、この密度は340Gbit/平方インチに増加しています。しかし、既に大手メーカー各社では600Gbit/平方インチのメディアの実験を行なっているそうです。このことは近い将来、更に3TB, 4TBのドライブがマーケットに登場することも予想されます。
更に、垂直磁化技術でのより高密度化を図る為に、磁気メディア上にパターン化された堀(グルーブ)を作り、その中に垂直磁化に必要な磁気材料を埋め込んだパターンメディアと呼ばれるディスクが開発されつつあります。既に日本のメディアメーカーやドライブメーカーはこの技術研究開発の速度を早めており、1Tbit/平方インチ、2TBドライブの記録密度の3倍のハードディスクも遠い将来のことではなさそうです。
しかし、このハードディスクの目覚ましい技術進歩も人間が作りだすデータの増殖スピードにはまだまだ追いつかないようです。今日の様に3年でデータ容量が2倍になるといわれるデジタルデータの増加スピードは、これらの地道な研究開発を風化させてしまう程のどん欲さで大容量ストレージを求めています。一部の人々はハードディスクの容量アップは既に限界といいます。しかし、このデジタルデータの加速度的な増加はハードディスク技術を新しいパラダイムに向け進化させ続けて行くことでしょう。【関連リンク】
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